海外のろう者へのインタビュー

(2)ミャンマー&マレーシア

2010年11月28日,全国身体障害者総合福祉センター戸山サンライズにて,2010年度ダスキン研修生のイー・ティンザー・トゥンさん(ミャンマー)とチャン・コック・シェングさん(マレーシア)にインタビューした内容をご紹介します。
 
(注)インタビューは,主に日本手話を使用しておこないました。ここでは,お二人にお答えいただいたままを記載しました。内容は,本人の認識に基づいていることをご了承ください。なお、必要に応じて「研究部」を付し、当研究部で把握している情報を参考まで記述しました。

イー・ティンザー・トゥンさんへのインタビュー

イー・ティンザー・トゥンさんへのインタビュー
【ティンザーさんのプロフィール】
氏 名:イー・ティンザー・トゥン(Ms. Aye Thinzar Tun)女性、ろう者
愛 称:ティンザー
手話名:小指1本を立てて目尻を指す
出身地:ミャンマー、ヤンゴン
日本で学びたいこと:
  ・ろう者の職業訓練や就労
  ・ろう児にとって効果的な理科教授法
  ・ろう教育
  ・基礎的なコンピューター操作の習得
(参考:一般財団法人日本障害者リハビリテーション協会のウェブサイト)
研究員:ティンザーさんの出身地を教えてください。
ティンザー:ミャンマー東南部のモン(Mon)州出身です。その後、ヤンゴン(Yangon)に転居して、メリー・チャップマン(Mary Chapman)ろう学校に入りました。
 
研究員:ミャンマーの手話はどんな状況ですか?
ティンザー:同じ国でも、ヤンゴンとマンダレーでは手話が違います。ヤンゴンで育った私は、マンダレーの手話が理解できません。
 
研究員:ミャンマーでは、JICAのプロジェクトとして、手話の本の作成を進めていますね。
ティンザー:はい。ヤンゴンとマンダレー(Mandalay)の両方のろう者が集まって、手話の統一を進めています。JICAの支援によって作られた手話の本を見ると、マンダレーの手話が多く採用されていて、ヤンゴンの手話はあまり採用されていないようでした。
 
研究員:ミャンマーのろう教育の状況について教えてください。
ティンザー:ろう学校は、全国に3校あります。ヤンゴンにあるのはキリスト教系の私立学校で、マンダレーのろう学校と北部の新設校は国立の学校です。
 
研究員:あなたが通っていたヤンゴンのろう学校の様子について教えてください。
ティンザー:ろう学校では口話ではなく、手話を使って教わりました。ヤンゴンのろう学校は、幼稚部、小学部、中学部で構成されています。
研究員:ヤンゴンのろう学校には、生徒と教員がどれくらいいますか?
ティンザー:現在、生徒が364人います。教員は53人いて、聴者が50人、ろう者が3人です。このほかに、ボランティアとして学校に関わっているろう者が15人います。私もそのボランティアのひとりです。
 
研究員:テレビの情報保障の状況はどうですか?
ティンザー:テレビに手話通訳はないのですが、字幕はあります。
 
研究員:これまで、どんな仕事をされてきましたか?
ティンザー:私は、クモン(公文)センター(Kumon Center)の算数の採点指導と、ろう児学習センターでの手話指導をしていました。このほか、ろう学校のボランティアにも参加しています。
 
研究員:来日研修に参加したきっかけは何でしたか?
ティンザー:ろう児学習センターの教員の勧めで、来日研修の試験を受けました。ビルマ語と英語の試験を突破して、6人の候補者のうち、私が選ばれました。
 
研究員:外国での滞在は初めてですか?
ティンザー:はい。今回の来日研修が、初めての海外経験です。
研究員:研修が終わって帰国したら、その後はどうされますか?
ティンザー:今回、研修に参加するために仕事を辞めてきました。でも、帰国後は再び採用試験を受けて、前と同じ教育の現場に戻りたいと思います。
 
研究員:ティンザーさん、今日はいろいろ教えていただき,ありがとうございました。
 
[研究部注1]ヤンゴンのろう学校は、正確にはNGOによって運営される学校である。また、3校目の「北部の新設校」とは、ろう者が多い障害者施設のことを指していると思われる。

チャン・コック・シェングさんへのインタビュー

チャン・コック・シェングさんへのインタビュー
【コックシェングさんのプロフィール】
氏 名:チャン・コック・シェング(Mr. Chan Kok Sheng)男性、ろう者
愛 称:コックシェング
手話名: 右こめかみでK-S
出身地:マレーシア、ジョホールバル
日本で学びたいこと:
  ・ろう者のエンパワメント
 ・ろう者が安心して暮らせるための相談業務
 ・リーダーシップの向上
(参考:財団法人日本障害者リハビリテーション協会のウェブサイト)
研究員:コックシェングさんのご出身はどちらですか。
コックシェング:マレー半島南部のジョホール(Johor)出身です。ジョホールのろう学校に通いました。
 
研究員:マレーシアの手話はどんな状況ですか?
コックシェング:マレーシアの手話は、地域によって異なります。かつてはアメリカ手話の影響もありましたが、近年では少なくなってきています。
 
研究員:マレーシアのろう教育の様子について教えてください。
コックシェング:ろう学校は、全国に20校ほどあります。
研究員:あなたが通っていたジョホールのろう学校の様子はどうでしたか?
コックシェング:ジョホールのろう学校では、口話でなく、手話で教わって育ちました。現在のろう学校には、小学部と中学部があります。生徒数は100人くらいです。
研究員:生徒は、中学部を卒業したらどうするんですか?
コックシェング:高等部からは、ペナン(Penang)のろう学校に行くことになります。
 
研究員:テレビの情報保障の状況はどうですか?
コックシェング:テレビでは、ニュースの時間に手話通訳が付くことがあります。
 
研究員:これまで、どんな仕事をされてきましたか?
コックシェング:私は、ろう者協会で聴者に対する手話指導をしてきました。だいたい、1クラスの人数は30人から50人くらいです。
研究員:来日研修に参加したきっかけは何でしたか?
コックシェング:ろう者協会の紹介で、来日研修のことを知りました。また、妻の勧めもあって応募しました。採用されて、両親(聴者)は喜んでくれました。
 
研究員:ご家族は、マレーシアにいるんですよね?
コックシェング:はい。妻(ろう者)はマレーシアで仕事をしていて、私の帰国を待っています。
 
研究員:外国での滞在は初めてですか?
コックシェング:いいえ、これまでは、中国の上海と、シンガポールを訪れたことがあります。シンガポールはジョホールから車で10分という近距離ですが、物価がとても高かったことを覚えています。
 
研究員:日本の印象は?
コックシェング:地震が怖いと思うことがありますね。
 
研究員:研修が終わって帰国したらどうされますか?
コックシェング:帰国後は、グラフィックデザイナーを目指したいと思います。
 
研究員:コックシェングさん、今日はいろいろ教えていただき,ありがとうございました。
 
(財)日本障害者リハビリテーション協会〔ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業〕