海外のろう者へのインタビュー

(1)フィジー&インド

2010年5月22日,新宿区立障害者福祉センターにて,2009年度ダスキン研修生のノアさん(フィジー)とアルティさん(インド)にインタビューした内容をご紹介します。
 
(注)インタビューは,主に日本手話を使用しておこないました。ここでは,お二人にお答えいただいたままを記載しました。内容は,本人の認識に基づいていることをご了承ください。

ノアさんへのインタビュー

ノアさんへのインタビュー
研究員:ノアさんの出身地を教えてください。
ノ ア:フィジーのスバ(Suva)出身です。
 
研究員:まず,フィジーのろう者協会について教えてください。
ノ ア:フィジーろう者協会は2002年に設立されました。ろう者人口は約4,000人です。
このうち,ろう者協会の会員は2,500人ほどです。会費は年間10米ドル相当です。ろう者協会には政府から補助金が支給されます。半年ごとに活動報告書を政府に提出して給付を受けています。
 
研究員:フィジーにろう学校はいくつありますか。
ノ ア:ろう学校はフィジーに1つだけです。幼稚部,小等部,中等部があります。
研究員:高等部はないのですか。
ノ ア:ろう学校に高等部はありません。高校からはいわゆるインクルーシブ教育となり,普通校で教育を受けます。普通校では手話通訳が付きます。私が現在教えているのも,こうした高校(Gospel High School)です。私は,高校で手話を指導しています。
 
研究員:ノアさんが勤務する学校に手話通訳者は何人いるのですか。
ノ ア:通訳の資格を有している人は5人。ほかに,資格はありませんが,まずまず手話通訳ができる人が5人ほどいます。
 
研究員:手話通訳者協会はあるのですか。
ノ ア:手話通訳者協会はありません。通訳者組織は,フィジーろう者協会の中に含まれています。
 
研究員:通訳者の養成事業はありますか。
ノ ア:あります。3年間の講習で,初級・専門・通訳レベルに分かれています。手話通訳者になるためには試験があります。読み取り(筆記),聞き取り表現のほかに,筆記試験があります。試験を主催するのはろう者協会です。
 
研究員:ふたたび,ろう学校についてうかがいます。ろう学校では手話を使っていますか。それとも口話教育ですか。
ノ ア:ろう学校の教育法は口話法ではなく,昔から手話教育です。ただ,2007年からは,「フィジー手話」を尊重していくという方針が明確にされました。今では,ろう学校ではフィジー手話オンリーとなりました。フィジー手話の本が2005年に編集されたのですが,そのころからフィジー手話オンリーとなったのです。
 
研究員:それまではどのような手話が使われていたのですか。
ノ ア:オーストラリア手話,ASL(アメリカ手話),BSL(イギリス手話)などが混在していました。フィジー手話の本は,オーストラリアのボランティア組織(Australian Volunteers International)から派遣されたボランティアが2年間かかって編集しました。
 
研究員:フィジー政府は,手話を言語と認識していますか。
ノ ア:言語としての手話については,現在,教育省と交渉中です。
 
研究員:ろう者は学校を卒業後,どのような仕事に就くのですか。
ノ ア:ろう者は高校卒業後,その多くは就職します。就職先として多いのは,バス工場や魚加工業です。そのほか,マクドナルドに勤務したり,漁師となる者も多いです。中には,大学へ進学する者もいます。
 
研究員:大学に進学した場合,手話通訳は付くのですか。
ノ ア:はい。大学では手話通訳が付きます。多くのろう者が行く大学は,USP(University of South Pacific)です。教育省がろう者協会に依頼して手話通訳を派遣します。
 
研究員:最後の質問ですが,フィジーでは,ろう者は運転免許の取得は可能ですか。
ノ ア:運転免許証取得は認められています。運転する際に,補聴器着用の義務はありません。
 
研究員:きょうはいろいろ教えていただき,ありがとうございました。

アルティさんへのインタビュー

アルティさんへのインタビュー
研究員:アルティさんのご出身はどちらですか。
アルティ:インドのムンバイ出身です。
 
研究員:では、インドのろう者とろう者協会についてお話を聞かせてください。
アルティ:インドのろう者はおよそ400万人といわれています。インド国内に、ろう者協会はたくさんあります。いくつ設立されているのかわかりませんので、ろう者協会の会員数についても、人数は把握していません。
 
研究員:インドで話される言語は種類が多いと聞いています。手話の種類も多いのでしょうか。また,手話は標準化されていますか。
アルティ:インドでは,10年前の2001年に手話の本が発行されました。しかし,そこに紹介されているのは,インドの一地域の手話であり,全国の手話の収集はおこなわれていません。地域による手話の違いが大きいので,全国のろう者が集まった際には,通訳に困ると手話通訳者が言っているそうです。
 
研究員:インドでは海外の手話の影響もありますか。
アルティ:ギャローデッド大学に留学するろう者もおり,そうした留学帰国者がASLを持ち帰り,手話が混在する結果となっています。
 
研究員:インド政府は,手話をろう者の第一言語と認めていますか。
アルティ:まだ認めていませんが,現在,交渉中です。
 
研究員:アルティさんの現在のお仕事は何ですか。
アルティ:2年前に大学を卒業し(専攻は商業),現在は英語の教授法を勉強中です。それと同時に,ろうの生徒を対象に英語を教えています。大学在学中は,手話に興味をもつ友人がいたので,その友人に手話を教える替わりに,友人に手話通訳をしてもらいました。大学卒業後,ろう者協会に行って初めて手話通訳という制度があることを知りました。
 
研究員:大学では,手話通訳を付けてもらえないのでしょうか。
アルティ:一般に,大学で勉強する際の手話通訳を依頼するのは難しいです。ただ,インドでは,非政府組織のイシャラ財団(Ishara Foundation)が,デリーにろう者の大学を設立する準備をしています。手話だけを使用する大学となる予定であり,IGNOU (Indira Gandhi National Open University)の中に設置されることになっています。
 
研究員:障害者福祉についてうかがいます。障害者はどのような割引サービスを受けることができますか。障害者手帳はあるのですか。
アルティ:私の出身地ムンバイでは,障害者はバス運賃の半額減免のみであり,他の割引はありません。障害者手帳に相当するものはありますが,サイズがとても大きくて,A4サイズぐらいです。携帯には不便ですね。
 
研究員:運転免許は取得できますか。
アルティ:ろう者の運転免許証の取得は,ちょうど5カ月前から認められるようになりましたが,詳細はわかりません。
 
研究員:いろいろ情報をご提供いただき,ありがとうございました。