海外のろう者へのインタビュー

(4)シンガポール

 2013年10月22日(火)、全国身体障害者総合福祉センター戸山サンライズにて、2013年度ダスキン研修生のイー・チャン・ローさん(シンガポール)にインタビューした内容をご紹介します。

※本インタビューは、話者の主観で語られている部分があり、実情と異なる場合があります。予めご了承ください。

イー・チャン・ローさんへのインタビュー

研究員:今日はよろしくお願いします。
まず、イーさんはいつ聴こえなくなったのですか?
 
イー :生まれてすぐ、赤ちゃんの時です。
生後3ヶ月〜6ヶ月ぐらいの時に高熱のため聴こえなくなりました。
 
研究員:学校はろう学校に通ったのですか。
 
イー :はい。6〜7歳ごろにろう学校に入学。その後9年間通って卒業しました。
その後は、普通の高校に入って4年間勉強しました。
 
研究員:高校では手話通訳はついたのですか。
 
イー :通訳がつく授業と、通訳なしの授業がありました。
例えば、数学の授業は通訳がついてくれましたが、美術の授業などは通訳なしで自分だけでも学べました。
 
研究員:通訳の費用はだれが払うのですか。
 
イー :政府が払ってくれます。
 
研究員:英語などの語学の授業では通訳がつきましたか。
 
イー :はい。通訳がつきました。
 
研究員:高校にろう者はほかにもいたのですか。イーさん一人だけだったのですか。
 
イー :私のクラスは40人いましたが、ろう者は私一人だけでした。ただ、クラスが違いますが、ほかにも3人のろう者がいました。私だけが上級レベルのクラスに入り、あとの3人は標準レベルのクラスにいました。クラスは別でしたが、お昼ご飯を一緒に食べたりしました。また、3人のグループには通訳がついたので、イベントがある時などは私も他の3人と一緒に行動しました。
 
研究員:イーさんと同じクラスの聴こえる生徒は、ろう者に対する理解はありましたか。
 
イー :最初は戸惑っていたようですが、少しずつ慣れてくれました。
 
研究員:聴こえる生徒に手話は教えましたか。
 
イー :はい。少しだけ教えました。親しい友達にも手話を教えました。
 
研究員:ろう学校から普通高校へ進学する学生はたくさんいたのですか。
 
イー :同級生は8人いましたが、通訳つきの高校が2つあり、各校にそれぞれ4人ずつ進学しました。私が通ったろう学校には高等部がないので。
 
研究員:シンガポールの教育制度はどのようになっているのですか。
 
イー :初等教育(Primary School)が6年間、中等教育(Secondary School)が4〜5年間、その後には2年間の短期大学(Junior college)か職業訓練校(Politech)に分かれる。Secondary Schoolには手話通訳がつくが、ここから上の教育には通訳はつかない。
私はポリテクを修了した(diplomaを取得)が、まだ大学へは進学していない。シンガポールでは大学進学は難しいので、オーストラリアの大学に行きたいと思っている。
 
研究員:大学で何を専攻したいのですか。
 
イー :経済学か社会学。
 
研究員:学士(学部卒業)、修士のどちらを希望しているのですか。
 
イー :まだそこまでは考えていません。
 
研究員:ところで、イーさんは、なぜダスキン研修生として来日しようと思ったのですか。
 
イー :私自身、聴覚障害のほかに、網膜色素変性症という病気をもっているので、将来はだんだん視力が低下していきます。現在、シンガポールには盲聾者の団体がないことや、自分が視力を失うこともあって、盲聾の人たちについて関心があります。日本に来てからは、盲聾友の会の人たちと会っていますが、日本の盲聾の人たちの楽しそうな様子を見てびっくりしています。シンガポールの盲聾者は、生活が大変で苦労が多いのです。
 
研究員:シンガポールでは福祉制度は進んでいますか。
 
イー :まだそれほど進んでいないと思います。例えば、盲聾のための触手話の通訳も上手な人はまだいません。
 
研究員:触手話の通訳に必要な費用について、政府から援助はありますか。
 
イー :それについては、私自身よく知りません。
 
研究員:日本では盲聾者が障害者年金という制度を利用できますが、シンガポールではどうですか。
 
イー :詳しくはわかりません。
 
研究員:雇用について、聴覚障害者に対してはどのような支援があるのですか。日本では障害者の割当雇用率が決められていますが、シンガポールではどうですか?
 
イー :法律については、勉強していないのでわからないです。
 
研究員:では、手話通訳者を依頼する場合はどうですか。政府が通訳に必要な費用を支払ってくれますか。
 
イー :ろう者に対する通訳者派遣については、学校の派遣と一般生活は別に扱われます。学校への派遣は政府の援助がありますが、そのほかの一般生活での派遣は自己負担です。
 
研究員:障害者割引はあるのですか。
 
イー :盲者については割引があるが、ろう者にはありません。その理由は、盲者は仕事につくのがとても困難ですが、ろう者は仕事に就けるためです。
 
研究員:企業などに就職したろう者は、社内で聴者との格差のようなものはありますか。
 
イー :大きな企業では、ろう者も聴者と同じ賃金をもらっているようです。でも、小さい会社に入ったろう者は、一生懸命仕事をしているにもかかわらず、給料は聴こえる人より少ない場合があります。
 
研究員:ろう学校の様子について再度うかがいますが、ろう学校ではろうの教師は何人いましたか。
 
イー :小学校では4人〜5人いたと思います。教師は聴こえる先生も含めて全部で14〜15人。全員が手話が堪能でした。
 
研究員:ろう学校では手話教育でしたか、口話重視でしたか。
 
イー :手話で教えてもらいました。シンガポールにはろう学校が2つあります。一つは手話法で、もう一つは口話法で教えます。私は手話法で学びました。
 
研究員:ASL(注1)とSEE(注2)の2つあるということですが、どうやって分けるのですか。2つの学校でそれぞれ異なるのですか。あるいは、自分で選択するのですか。
 
イー :自分で決めるのではありません。私の場合、6〜7歳ぐらいまではASLでしたが、学校に入った後はSEEで教えられたので、今はSEEです。
手話通訳のほとんどはSEEです。ASLを使う人はほんの少しです。
 
研究員:シンガポールにろう者協会はありますか。
 
イー :あります。3つの協会(団体)があります。一つは政府とのつながりをもちます。2つ目は自主的なもの。3つ目はスポーツをする団体で、政府とも関係があると思います。
 
研究員:シンガポールでは、2016年でろう学校がなくなると聞いていますが、本当ですか。
 
イー :はい。手話法の学校がなくなるということです。政府が人工内耳の補助金を出して、人工内耳の手術をすすめているためです。私の場合は、16歳ぐらいの時に祖父から人工内耳を薦められましたが、医者で検査の結果、うまく適合しないことがわかったので手術はしていません。
 
研究員:イーさんの家族にろう者はいますか。
 
イー :ろうは自分だけです。
 
研究員:家族とはどうやってコミュニケーションをとっているのですか。
 
イー :母は、上手ではありませんが手話がわかりました。妹は手話がうまいです。父とはほとんど筆談です。
 
研究員:最後の質問です。イーさんの将来の夢は何ですか。
 
イー :まだ決めていません。でも、人を助ける仕事がしたいです。
 
研究員:今日はどうもありがとうございました。