海外のろう者へのインタビュー

(5)モルディブ

 2014年11月7日(土)、全国身体障害者総合福祉センター戸山サンライズにて、2014年度ダスキン研修生のディナ・ラティフさん(モルディブ)にインタビューした内容をご紹介します。

※本インタビューは、話者の主観で語られている部分があり、実情と異なる場合があります。予めご了承ください。

ディナ・ラティフさんへのインタビュー

研究員:今日はありがとうございます。あなたのお名前は何ですか。
 
ディナ:私の名前はディナ・ラティフです。
 
研究員:手話ではどのように表しますか。
 
ディナ:手話では右手で左手首を持ち、左手は握ったまま回します。
 
研究員:どこから来られたのですか。
 
ディナ:モルディブです。
 
研究員:日本まで来るのにどのくらい時間かかるのですか。
 
ディナ:ドバイまで4時間かかり、それから日本に来るまで9時間かかります。全部で13時間です。
 
研究員:わかりました。続いてディナさんの生い立ちを話してください。
 
ディナ:私は、本当は生まれたときから聴こえなかったのですが、親はそれに気づきませんでした。1歳になった時に言葉を話していなかったので、おかしいと思い、病院に連れていったそうです。そこで聞こえないのがわかり、親は、とても悲しんだそうです。親や兄弟達が働いて貯めたお金で、インドに1、2ヶ月ほどいて有名な耳鼻科の先生に見てもらい、そこで高い補聴器を買いました。また、お金を貯めてインドに行き、耳鼻科の先生に診てもらうということを繰り返しました。モルティブにはいい耳鼻科の先生がいなかったので・・・。
しかし、私は、補聴器をつけてもらっても、すぐ壊してしまいました。合わなかったからかもしれません。
 
研究員:あなたの家族はみんな聴こえますか。
 
ディナ:私だけ聴こえません。兄弟は全員で8人で、私は7番目です。1番上が女で、2番目が男、3番から6番目が女、7番目が私、8番目が男です。父と母を合わせて全員で10人です。
 
研究員:他のみんなは聴こえるのですね。家族とのコミュニケーションはどのようにしていたのですか。
 
ディナ:コミュニケーションをとるのは難しかったです。身振りや筆談でやりとりしていました。今は離れているので、メールしたりビデオ通話などでやりとりをしています。毎日。マレにはろう者・児のためのクラス(※モルディブにろう学校はなく、一般的な学校の一部をろう児・者用の教室として使っています。以下、そのような教室を「ろう児・者クラス」と表記します。)がありますが、カーフ環礁にはありません。地元の普通校にちょっと通ったのですが、先生は手話ができません。カーフ環礁からマレに移った時は勉強ができて楽しかったです。自分と同じ聴こえない人と出会え、また、ろう者同士で手話で遠慮なく会話できて嬉しかったです。
 
研究員:カーフ環礁からマレまでは船で何時間かかるのですか。
 
ディナ:飛行機を使います。1時間くらいです。
 
研究員:遠いですね。
 
ディナ:そうですね。飛行機だとすぐに着きます。
 
研究員:プロペラ機ですか。
 
ディナ:そうです。
 
研究員:分かりました。ろう児・者クラスに通っていたのは何歳のころですか。
 
ディナ:6歳のとき、地元の学校に入ったのですが、12歳のとき、マレのろう児・者クラスのある学校に転校しました。
 
研究員:カーフ環礁にはろう児・者クラスがあるのですか。
 
ディナ:いいえ、ありません。聴こえる人と一緒に勉強しました。
 
研究員:授業の内容は分かりましたか。
 
ディナ:となりに手話のできる人がいましたので、先生の言うことが分からなかったときはその人に手話で教えてもらいました。ただ、その人が勉強に集中しているときは、聞くのを遠慮していました。
 
研究員:カーフ環礁の名前のスペルを書いてください。
 
(ディナさん、島の名前を書く:「Kaafu Atoll」)
 
研究員:ディナさんが生まれた島(カーフ環礁)の手話がこれなのですね。
 
ディナ:この島の手話は、「町」+「香港」に似た手話です。昔は、「香港」に似た手話の島と「町」に似た手話の島の間は海でしたが、今は土を埋め立てて繋がりました。
 
研究員:なるほど。「町」に似た手話の島と「香港」に似た手話の島を繋げたのですね。それで、手話表現が「香港」+「町」なのですね。
 
ディナ:そうです。
 
研究員:マレまで飛行機で1時間くらいかけて移動する。長いですね。モルティブには島がいくつあるのですか。
 
ディナ:大きい島が26あります。
 
研究員:分かりました。モルディブにはろう者は沢山いるのですか?
 
ディナ:200人位います。
 
研究員:人口は全部で何人ですか。
 
ディナ:聴者とろう者を合わせた人口は342,000人位です。
 
研究員:ろう学校はいくつありますか。
 
ディナ:首都(マレ)のみで周辺の島にはありません。周辺の島に住んでいるろう者は、私と同じように聴こえる人と一緒に勉強することが多いです。
 
研究員:聴者と一緒に勉強していた時は、戸惑いなどはありましたか。
 
ディナ:友達とは楽しく過ごせていましたが、成績が良くありませんでした。いつも悪かったです。友達とは楽しく遊んだりできましたし、美術の成績は良かったのですが、それ以外の科目の成績が良くなかったので、父に連れて行かれてマレに移りました。
 
研究員:そうですか。分かりました。そのときは、手話はまだ覚えていなかったのですか。
 
ディナ:はい。マレに移った時に初めて覚えました。
 
研究員:手話を教えたのは誰ですか。
 
ディナ:学校の先生です。
 
研究員:ろう児・者クラスでは手話を使っていましたか。それとも口話ですか。
 
ディナ:手話でした。生徒も先生もみんな手話を使いました。
 
研究員:先生はろう者ですか。
 
ディナ:聴者です。
 
研究員:ろう者と聴者それぞれの先生がいたのですか。
 
ディナ:1人だけろうの先生がいました。その人以外は全員聴者でした。
 
研究員:先生たちはみんな手話できましたか?
 
ディナ:はい。みんなできました。
 
研究員:なるほど。英語は勉強していましたか。それとも手話のみでしたか。
 
ディナ:両方です。両方とも勉強しました。
 
研究員:ろう児・者クラスの生徒は全部で何人いましたか。
 
ディナ:34人くらいでした。学年はばらばらでした。
 
研究員:ろう児・者クラスを卒業した後、仕事はどうされていましたか。
 
ディナ:1年前に卒業し、島に戻りました。その後、3月にモルディブでダスキン研修(※ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー事業)の関係者に会いました。
 
研究員:仕事はしていなかったのですか。
 
ディナ:していません。ただ、子どもに勉強を教えたり、周りに手話を教えたり、ろう協会の活動のお手伝いなどをしていました。
 
研究員:他のろう者は仕事を持っているのですか。
 
ディナ:はい。少しだけ。家事手伝いをしているろう者が多いです。少人数のろう者だけが仕事を持っています。
 
研究員:その人たちはどのような仕事をされていらっしゃるのですか。
 
ディナ:ガラス細工をしたり、コピーの仕事をするなど、まちまちです。後は飛行機の清掃とか。みんな学校に通ったことがありません。
 
研究員:仕事をされていない人の方が多いのですか。
 
ディナ:島にいる人は仕事があまりありません。ホテルの仕事などはありますが、少ないです。給料は高いのですが。
 
研究員:ディナさんの今後の目標は何ですか。
 
ディナ:私の目標は、手話の分析や女性問題の解消に取り組む、将来、アジア太平洋ろう青年キャンプをモルディブで開催することです。また、ろう通訳者にもなりたいと思っています。
 
研究員:モルディブには通訳者はいるのですか。
 
ディナ:少しだけいます。3人います。
 
研究員:通訳を依頼した時の費用は自分でお金を払うのですか。
 
ディナ:要りません。無料です。
 
研究員:政府が出してくれるのですか。それとも無償のボランティアですか。
 
ディナ:無償です。
 
研究員:モルディブ政府がお金を出すことは無いのですか。
 
ディナ:TV通訳などはお金が出ますが、それだけです。
 
研究員:TV通訳だけで、その他のところではお金は出ないのですか。
 
ディナ:出されません。
 
研究員:個人的な通訳の場合はボランティアでやるのですか。
 
ディナ:そうです。ボランティアです。今後は政府からお金が出るようにしたいです。それが今後の目標です。
 
研究員:先ほど言っていた女性問題とはどのような問題ですか。
 
ディナ:周辺の島では以前から女性問題が沢山ありました。レイプとか避妊せずに性交渉を持って妊娠してしまうなどの問題です。
 
研究員:ろう者が被害に合うのですか。
 
ディナ:そうです。知識がないために起きてしまうのですね。妊娠したため、家から追い出されてしまうという問題もありましたし、知識がないのをいいことに男性がろう女性を性処理の道具にしてしまうというのもありました。本当にいっぱいあるんですよ。
 
研究員:ディナさんは今後、女性問題解決のために教育をしていきたいのですか。
 
ディナ:そうです。
 
研究員:モルディブの島々で暮らしている、ろう女性は教育を受ける機会が無いのですか。
 
ディナ:ありません。
 
研究員:ろう男性もですか。
 
ディナ:そうです。
 
研究員:そうですか…なるほど。
 
ディナ:ろう学校があるところまで通うのに飛行機などを使うので費用がかかり、経済的に難しいところがあります。
 
研究員:なるほど。仕事を持っていないろう者はどのように生活されているのですか。
 
ディナ:政府から援助があります。ろう者に対しての援助があり、私も受けていました。
 
研究員:援助を受けることで、自立しづらくなることはあるのですか。
 
ディナ:あります。
 
研究員:それは問題なのでは…。
 
ディナ:問題ですね。
 
研究員:政府からの援助は十分ですか。
 
ディナ:十分ではありません。身体障害者や視覚障害者にも援助しますので。
 
研究員:食べていくには事足りるのですか。
 
ディナ:はい。それは大丈夫です。
 
研究員:住むところも確保できるのですか。
 
ディナ:それは難しいです。自分だけでは生活できないので、家族と一緒に生活することが多いです。
 
研究員:なるほど。家族と同居していれば、食べ物には困らない。そのため自立心が育たなくなるなどの問題も起きているのですね。
 
ディナ:家族は見て見ぬふりをします。
 
研究員:関心がないのですね。
 
 
 
<手話通訳について>
 
ディナ:手話通訳は何人かいますが、3人の通訳は手話がとても上手です。
 
研究員:他にもいるけど、その3人は技術が高いということですね。通訳者になるには資格が必要なのですか。
 
ディナ:要りません。
 
研究員:そうなのですか。技術を判断するのはだれですか?また、その3人はどのように活動しているのですか。
 
ディナ:1人は病院、もう1人は先生、残りの1人は警察で働いています。
 
研究員:もう1回確認しますが、通訳者になるのに資格は無いのですね。
 
ディナ:ありません。
 
研究員:その3人はディナさんからみて、技術が高いということですか。
 
ディナ:そうです。警察からお墨付きみたいなものをもらって活動しています。警察官をしている通訳者は、男性です。
 
研究員:再確認です。3人のうち、二人は女性、一人は男性ですね。その方は公的な通訳認定によって通訳になったというわけではないんですね。ろう者から見て技術が優れているというのが3人というわけですね。
 
ディナ:そうです。
 
 
 
<政府からの支援について>
 
研究員:補聴器は付けていた時期もあったが、3か月くらいで付けるのをやめたのですよね。
 
ディナ:9カ月ぐらい付けていましたが、我慢できなくなったので外しました。3回故障しました。
 
研究員:聴者の学校に通っていた時、学費は払っていたのですか。
 
ディナ:いいえ。無料でした。
 
研究員:政府からの援助なのですか。
 
ディナ:いいえ。教科書だけは自分で買う必要がありました。
 
研究員:もし、教科書を買うお金もない場合はどのようにするのですか。例えば、もし、親御さんが亡くなられたなどで、お金が無くなった場合はどのようにするのですか。
 
ディナ:その場合は政府から支援があると思います。
 
研究員:ろう児・者クラスでは学費を自分で出す必要がありましたか。
 
ディナ:いいえ。教科書だけです。
 
研究員:ろう児・者クラスに通っていたのは、12歳から何歳までですか。
 
ディナ:20歳までです。
 
研究員:その間、学費を払うことは無かったのですか。
 
ディナ:ありませんでした。
 
研究員:教科書代のみ支払っていたのですね。
 
ディナ:そうです。
 
研究員:分かりました。貧しいろう者はどのようにされているのですか。
 
ディナ:どういう意味ですか。
 
研究員:周辺の島に住んでいてお金がないため、マレまで行く交通費を捻出することができない貧しい家族のろう者という意味です。政府が支援することはありますか。
 
ディナ:ありません。親の教育熱心さに左右されてしまうという面もありますね。私の場合は、親が熱心だったので、モルディブのろう学校に通うことができましたし、成績はトップでした。
 
研究員:ろう者の大学生はいるのですか。
 
ディナ:いません。
 
 
 
<日本に対する印象>
 
研究員:おそらくこれからですね。今、日本に来てからどのくらい経ちましたか。
 
ディナ:9月7日に来日しました。
 
研究員:9月7日に来たのですね。2か月ですね。日本に初めて来たとき、何か感じたことはありますか。
 
ディナ:建物が多かったです。人々も身だしなみがきれい、道も綺麗でした。公園も広くて、木も色とりどりで驚きました。
 
研究員:雪を見るのは楽しみですか。
 
ディナ:これから降るそうなので、楽しみです。でも、寒いのは嫌です。
 
研究員:今勉強していることは何ですか。
 
ディナ:日本語と日本手話を覚えています。12月にクラスが終わり、それから色々なところに行きます。
 
研究員:どんなことを研修したいのですか。
 
ディナ:日本文化やろう者について学んだり、女性問題を解消する方法を考えたりしたいです。また、手話分析の方法も勉強したいです。
 
研究員:やはり女性問題に取り組みたいのですか。
 
ディナ:そうです。取り組んでみたいです。モルディブでのろう者の選挙で、女性問題に取り組まなければならない立場に選ばれたのですが、当選した翌々日に日本への研修が決まり、辞退したのです。今は日本に来て勉強しています。
 
研究員:ディナさんが当選したその女性問題に取り組むグループはろう者ですか。それとも聴者ですか。
 
ディナ:ろう者のグループです。
 
研究員:ろう者だけですか。それとも肢体不自由者なども含まれていますか。
 
ディナ:ろう者のみです。様々な問題解決をサポートします。
 
研究員:聴者は含まれませんか。
 
ディナ:含まれません。
 
研究員:ろう者のグループで当選したのですね。今何歳ですか。
 
ディナ:21歳です。
 
研究員:若いですね。
 
ディナ:もうすぐ22歳になります。誕生日が11月20日なんです。
 
研究員:バースデーケーキが必要ですね(笑)。
 
ディナ:(笑)ありがとうございます。
 
 
 
<手話のテキストについて>
 
研究員:モルディブには手話のテキストはありますか。
 
ディナ:あります。
 
研究員:1冊ですか。それとも2冊ですか。
 
ディナ:1冊です。コンパクトなものがあります。
 
研究員:単語数はいくつですか。
 
ディナ:だいたい600語くらいだったと思います。
 
 
 
<今後のこと>
 
研究員:研修が終わった後、モルディブに戻った後、頑張ってみたいことは何ですか。
 
ディナ:女性問題解決や、ろう協会活動のサポート、教育機会の保障、通訳者の拡大、ろう者の地位向上、政府との交渉、連携などを頑張りたいです。
 
研究員:根気強く交渉が必要ですね。
 
ディナ:そうです。頑張って交渉したいです。
 
研究員:モルディブのろう者にとって最も大きな問題は何ですか。
 
ディナ:結婚した時の男女格差です。男性の方が強い、高い立場になることが多いです。それから、周辺の島に住んでいるろう女性は勉強をする機会が無く、男性と比べて女性は知識が足りないことが多いです。男性がそんな女性を狙って強姦することもあります。ろう者はみんな、何をすればよいかわからないままです。聴者からの支援もありません。ろう女性の立場を高めたいです。
 
研究員:頑張ってください。ディナさんが生まれた島では、普通学校に通っていた時、先生の言っていることが分からないときは友達に手話や筆談で教えてもらっていたのですよね。
 
ディナ:はい、書いてもらったのですが、書かれている内容、単語がわかりませんでした。簡単な単語ならわかるのですが、文レベルとなるとわかりませんでした。
 
研究員:ろう学校で手話に目覚めたのですね。
 
ディナ:はい。言葉の意味も分かるようになり、嬉しかったです。
 
研究員:分かりました。ではこれで終了です。ありがとうございました。
 
ディナ:日本で研修をさせて頂くと言う大きな機会を与えて下さり、ダスキン(※ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー事業)にとても感謝しています。
 
 
 
<インタビュー後に>
 
研究員:ディナさんの方から何か質問はありませんか。
 
ディナ:私は日本食で、豚がだめです。魚や肉、野菜は大丈夫ですが、豚肉だけは無理です。
 
研究員:宗教の関係ですか。
 
ディナ:そうです。イスラム教です。日本は味が違いますね。モルディブでは美味しく食べられていたものが、日本では違う味になります。
 
研究員:大変ですね。やせ細ったりすることはありませんか。
 
ディナ:ありません。維持しています。タイやインドのご飯は美味しくて沢山食べています。
 
研究員:豚肉だけがどうしても無理なのですね。
 
ディナ:無理です。禁止されています。
 
研究員:大変ですね。では、これで終わります。ありがとうございました。