海外のろう者へのインタビュー

(8)モンゴル&タイ

2017年10月1日、2017年度ダスキン研修生のソロンゴさん(モンゴル)とカォクンさん(タイ)にインタビューした内容を紹介します。

※本インタビューは、話者の主観で語られている部分があり、実情と異なる場合があります。予めご了承ください。

ソロンゴさんとカォクンさんへのインタビュー

研究員①:日本に来られる前はどのような仕事をされていましたか?
 
カォクン:今は休職して研修を受けています。10ヶ月休職することになっています。
 
研究員①:休職して日本に来られたのですね。
 
カォクン:政府のエネルギー関係の仕事をしています。エネルギーを管理します。
記録をとったり分析したり、タイ全土のエネルギー関係の状況について調べたりします。
 
研究員①:タイでそのような仕事をされていたのですね。
 
カォクン:はい。「ERC」といいます。Energy Regulatory Commission です。
 
研究員①:分かりました。カォクンさんはろうあ協会の仕事もされているとか?
 
カォクン:はい。並行してやっています。ろうあ協会の方は理事を務めています。事務局長もしています。ボランティアとしてやっています。仕事が終わった後は協会で活動します。
 
研究員①:なるほど。
 
カォクン:バンコクの協会は2013年に始まりました。クラブとして設立し、1年後に認証され、協会となりました。2年が経ち理事の任期を終えた時に、タイ協会の選挙があり、事務局長に選出されました。そして今に至ります。
 
研究員②:タイ協会というのは、全国組織としての協会ですか?
 
カォクン:はい。私は最初バンコク協会から始まり、2年の任期を終えたあと、タイ協会の事務局長になりました。
 
研究員①:分かりました。ソロンゴさんは、日本に来られる前は何をされていましたか?
 
ソロンゴ:ろう教育関係です。ろう学校の教育法が誤っているので、それを変えたく、この機会を生かして日本でいろいろ学びたいです。
 
研究員①:ソロンゴさんは学校の先生ですか?
 
ソロンゴ:いずれ、ろう学校の幼稚部の先生になりたいです。
 
研究員①:なるほど。現在のお仕事は何でしょう?
 
ソロンゴ:モンゴルでは4年間服飾の仕事をしていました。両親と一緒にです。大学を卒業した後に就きました。46人が大学に入りましたが、難しく、41人が辞めました。5人だけ卒業することができました。仲間たちとは「もっと(卒業して仕事に就くことができる)ろう者が増えてほしいね」と話しています。
 
研究員①:大学に入ったのはいつですか?
 
ソロンゴ:2012年に大学に入りました。周りはきこえる人ばかりでした。その後ダルハン・オールで2年。合わせて6年間、大学で学びました。周りの言っていることはわかりませんでしたが、ダルハン・オールでは私ときこえる人5人だけだったので、コミュニケーションがスムーズでした。そして卒業することができました。
 
研究員③:大学での講義には手話通訳が付いたのですか?
 
ソロンゴ:付いていなかったので、講義の内容が理解できるときとできない時がありました。ダルハン・オールでは付くようになったので、理解できました。
 
研究員③:大学では何を専攻されていたのですか?
 
ソロンゴ:教育です。
 
研究員①:ろう学校にはろうの先生はいますか?
 
ソロンゴ:3人ほどいます。服飾などの技術を教えます。
 
研究員②:41人が大学を辞めたのはどうしてですか?
 
ソロンゴ:大学はろう者を教えることは頭になく、ろう者は大学で学ぶことに困難を抱えるからです。
 
研究員①:ろう者は1つの大学に集まるのですか?
 
ソロンゴ:それぞれ別の大学で学んでいます。でもほとんどが途中で退学しました。卒業したのは5人ほどです。
 
研究員③:モンゴルにろう学校はいくつありますか?
 
ソロンゴ:いくつかあります。ITや服飾など色々学べます。
 
研究員①:タイはいくつありますか?
 
カォクン:30校以下だったと思います。
 
ソロンゴ:モンゴルも同じくらいです。
 
カォクン:20校以下だったかもしれません。
 
研究員①:減ってきているのですか?
 
カォクン:いえ、減っていることはありませんが、やはり少ないですね。
 
研究員②:教育するときは手話法ですか?
 
カォクン:私の場合はずっと一般学校で育ってきましたので、分かりません。
私はろうあ協会に入ってから手話を学びました。
大学では心理学を学び、大学院では保健を学びました。
そのあとにバンコクのろうあ協会に入りました。そこでは、メンタルや法律、政治について研究しました。やがてアジア太平洋の活動にも携わるようになりました。研究するのが好きだったのですが、アジア太平洋の活動と両立するようにしました。
今は通訳の資格も取り、通訳活動もしています。
 
研究員①:通訳?ろう者に向けてですか?
 
カォクン:そうです。ろう者から依頼され、きこえる人とともに通訳に出向くことがあります。
きこえる人の手話や口話を見て、ろう者に通訳します。
私は声をきれいに出せるのですが、きこえる人がそれを知ってからは私に通訳を依頼するようになりました。
 
研究員①:そのきこえる通訳者たちは、他のろう者には依頼することなく、カォクンさんに直接依頼するのですか?
 
カォクン:通訳をコーディネートするところがあり、そこから依頼されます。
 
研究員①:ろう通訳者は、例えば病院などに設置されているのですか?
 
カォクン:いえ、されていません。警察関係の通訳をすることもあります。守秘義務も守らなければなりません。通訳者として公的にも認知されています。
 
研究員①:資格を取られているのですね。
 
カォクン:最初は講演の通訳などをすると思っていたのですが、違いました。いろいろな場面で通訳します。
後ろから話されるとわかりませんが、ヘッドフォンなどをつけると聞き取れます。人によって聞き取れる時と聞き取れない時があります。
聞き取れる人を見つけて通訳します。聞き取れない人は通訳しないようにしています。コミュニティのなかの通訳ならできます。
 
研究員③:その方法はタイで広がっているのですか?
 
カォクン:ろう通訳者は何人かいます。きこえる人も含めて通訳者全体で500人ほどだったと思いますが、ろう通訳者は200人ほどだと思います。
ただ、仕事が多いです。通訳は2人行くこともあれば、1人で行くこともあります。
 
研究員③:通訳はボランティアですか?
 
カォクン:政府から謝金が出ます。
 
研究員①:きこえる通訳者もろう通訳者も金額は同じなのですか?
 
カォクン:講演の通訳は同じ額を2人分もらえますが、警察や法廷は1人分を折半しなければなりません。
ろう者はそのことに対して抗議しません。
医療や警察が問題です。平等にしなければなりません。
大人数の講演通訳のような場合は2人ですが、警察は1人だけです。もし2人で通訳したい場合は謝金を折半します。
 
研究員①:先程500人と言っていましたが、きこえる通訳者は300人、ろう通訳者は200人ということですか?
 
カォクン:はい、そのくらいです。
 
研究員②:誰が通訳者を認定するのですか?
 
カォクン:センターがいくつかあります。
 
研究員①:ろうあ協会の中にあるのですか?
 
カォクン:はい、バンコクにひとつ、他のところにもあります。
 
研究員①:センターはろうあ協会が運営しているのですか?
 
カォクン:はい、ろうあ協会の中にあります。
 
研究員③:ろう通訳の登録試験があるのですか?
 
カォクン:はい。私はそれに合格しました。ほとんどがASLや国際手話からタイ手話に通訳します。また、手話をタイ語にして筆談することもあります。
 
研究員①:モンゴルは、どのくらいの通訳者がいるのですか?
 
ソロンゴ:30人以下だと思います。
 
研究員①:ろう通訳はありますか?
 
ソロンゴ:あります。
 
研究員①:来日されたばかりの頃は、どなたが通訳されていたのですか?
 
カォクン:Nさんです。
 
研究員③:タイには手話辞典があると思うのですが、今、新しく発行する計画はありますか?
 
カォクン:いま7冊あります。分厚いです。
 
研究員①:ろう者が作っているのですか?それともきこえる人が?
 
カォクン:一緒になって作っています。今も単語の収集が進められています。
単語を集めて、それを文にして説明するなどしています。ABC順で掲載しています。
 
研究員②:どこが辞書を作っているのですか?
 
カォクン: センターです。センターで単語を収集しています。
 
研究員①:センターにはろうの教師がいますか?
 
カォクン:いません。何人かのろう者が集まって仕事したり交流したりしています。
 
研究員①:センターとろうあ協会は連携していますか?
 
カォクン:ろうあ協会から記録を共有しています。協定書にも協会の名前が載っています。
 
研究員③:モンゴルには手話辞典はありますか?
 
ソロンゴ:きこえる人に教えるためのテキストはありますが、ろう者にとって違和感がある内容だったので、2年かけて改訂し、発行しました。
 
研究員③:いつ発行したのですか?
 
ソロンゴ:2年前です。ろう者が認めたものを発行しました。
 
研究員③:単語数はどのくらいですか?
 
ソロンゴ:分厚いのですが、語数は分からないです。
 
研究員①:1ページに一語ですか?
 
ソロンゴ:いくつかの語が載っています。
 
研究員③:協会が発行しているのですか?
 
ソロンゴ:ろう者が監修しています。
 
研究員③:なるほど。最近、日本ではきこえない子どもに人工内耳を装用させることが増えていますが、それぞれの国ではいかがですか?
 
カォクン:装用させるにあたって、政府から金銭的援助が出ます。ろう者は反対しています。子どもの意思を尊重するようにしています。子どもが付けたいならば付けさせる、という考え方です。親が決めて付けさせるようなことは良くないです。
 
研究員③:装用する人は増えているのですか?
 
カォクン:そんなに増えてはいないと思います。
 
研究員③:難聴者は装用する人が増えていないのですか?
 
カォクン:政府はろう者のみに援助するようにしています。難聴者への援助は認めていません。補聴器は援助があるのですが。
人工内耳は7歳まで付けることが推奨されています。医者が分析では、2、3歳〜7歳までの間に付けると、口話やコミュニケーション能力が伸びやすい、ということになっています。それ以上の年齢は医者の判断になります。
人工内耳にするか補聴器にするかは、医者の判断が重要になります。
 
研究員②:モンゴルはいかがですか?
 
ソロンゴ:10歳になったら韓国に連れて行かれ、人工内耳を装用させることがあります。完璧に聞こえるようになるわけではないと思いますが、親が強く希望することがあります。
装用してモンゴルに戻ってきても、口話やコミュニケーションができるようになるまではならないです。そのことに親も落胆します。
政府にこの問題を提起しても、黙り込んでしまいます。ろう者は人工内耳を付けないように主張しています。
 
研究員③:韓国まで行く理由は何でしょうか?
 
ソロンゴ:モンゴルでは装用手術ができません。韓国ではできるので、付けたい場合は韓国まで行きます。
 
研究員①:アメリカや中国など、他の国は選択肢にないのですか?
 
ソロンゴ:韓国で装用した人がモンゴルで良い発育をした例があるので、韓国を選ぶ人が増えました。
韓国から学んで、いずれモンゴルでも手術ができるようになるかもしれません。
 
研究員②:韓国もサポートしているかもしれませんね。
 
ソロンゴ:そうですね。
 
研究員①:モンゴルのろう学校では手話を使って教育しますか?
 
ソロンゴ:幼稚部ではきこえる先生が教えますが、手話が得意ではないので、ろう者と交流する機会を設けるようにしています。
 
研究員②:ろう学校には政府から支援があるのですか?
 
ソロンゴ:支援してもらえるように、いま準備を進めています。
 
研究員②:政府が支援しているのはダルハン・オールにある学校だけですか?
 
ソロンゴ:ダルハン・オールに対しては少ないです。ウランバートルにはたくさんあります。
ダルハン・オールは10校くらいです。車で3時間くらいかけて行きます。私の親はダルハン・オールにいます。
 
研究員③:モンゴルにろう者は何人いますか?
 
ソロンゴ:うーん…たくさんいますが、数はわからないです。
 
研究員③:ウランバートルだけだと?
 
ソロンゴ:ウランバートルのろう者には会ったことがないので、分かりません。
 
研究員①:聾学校に通っていたのですよね?
 
ソロンゴ:はい、モンゴルにあるろう学校です。私は両親と姉と一緒に暮らしていました。
 
研究員①:ソロンゴさんが通っていた聾学校は全部で何人いましたか?
 
ソロンゴ:500人ほどです。
 
研究員③:寄宿舎はあるのですか?
 
ソロンゴ:はい、あります。同じ敷地内にあります。飲食など生活費は無償です。政府から援助があります。
 
研究員③:手話は先輩や後輩とコミュニケーションしていくなかで覚えたのですか?
 
ソロンゴ:はい、そうです。
 
研究員③:家庭では手話を使いますか?
 
ソロンゴ:父親は少しだけですが、母親は上手です。手話で話します。
 
研究員③:なるほど。カォクンさんはどうですか?
 
カォクン:両親2人ともできません。口話です。
後ろで話されると分からないので、目を合わせて話す必要があります。
 
研究員④:ろう者の多くはどのような仕事に就きますか?
 
ソロンゴ:多くのろう者が仕事に就けません。そのことを母親が心配しているので、ろう者が働ける場を作りたいと言っています。
ダスキンのことを知った時も、母親が概要を説明してくれて
日本の文化やルールを吸収してモンゴルで働ける場を作ったらどうかと言われました。
 
研究員①:タイはどうですか?
 
カォクン:タイでも多くのろう者が仕事に就けないことが問題になっています。タイ語が書けないことが壁になっています。
 
研究員①:タイ語ができれば、就職できるのですか?
 
カォクン:公務員になる人もいますし、会社員になる人もいます。清掃やくじ売りやバイクの修理工になる人もいます。
しかし、大勢のろう者が、タイ語ができないがために職に就けないのです。
 
研究員①:なるほど。では、これでインタビューは終わりです。ありがとうございました。
 
カォクン&ソロンゴ:ありがとうございました。