海外のろう者へのインタビュー

(9)ウクライナ ③その他

※本インタビューは、話者の主観で語られている部分があり、実情と異なる場合があります。予めご了承ください。
 
「ウクライナの手話事情」「日本在住で驚いたこと」「文字字幕放送」についてインタビューしました。
 

ボズコさんへのインタビュー「ウクライナの手話事情」

研究員:さて、ボズコさん、ウクライナの手話講習会とか指導のシステムとか手話通訳の現状などについてお話しください。
 
ボズコ:手話講習会はあります。大切だと思います。講習会のカリキュラムというかシステムですね。ちょっとそれますが、ウクライナ手話とロシア手話は同じなんですね。しかし、文字は違います。さて、手話講習会は、大学が担っており、そこで手話通訳の養成をやっています。
 
研究員:その大学があるところは、キーウとかそういうところですか?
 
ボズコ:ウクライナには州が22あり、一つの州に手話通訳を養成する大学が必ず一つあります。
 
研究員:ろう学校はどうでしょうか。
 
ボズコ:そうですね。大学と同じように一つの州に二つあります。一つはろう者のための、もう一つは難聴者のための学校です。それぞれ教育のカリキュラムが違います。
キーウですと、そういう学校が三つあり、一つは難聴者、二つはろう者のための学校です。キーウは大きな町ですので、三つあるんですね。他の州は二つずつあります。
それから、ろう協会ですね。ろう者が集まっての交流会や大会、お祭りなどが各州に必ずあります。
 
研究員:一年に一回ですか。
 
ボズコ:いや、クリスマスや事あるごとに集まるんです。それに知識、教養を深める講座もたくさんやっております。
 
研究員:いいですね。さて、手話通訳者についてお伺いします。手話通訳の資格とかそういうものはあるのでしょうか。
 
ボズコ:聴者の手話通訳ですね。たくさんいます。各州にあるろう協会のメンバーとして、各協会に必ず二人か三人はおります。
 
研究員:その通訳者に対する保障はどのようになっていますか?
 
ボズコ:政府からの支援はあります。もう少し詳しく説明しますと、従業員全員がろう者という工場があって、工場が得た利益の一部を、政府からの支援と合わせて手話通訳の保障に充てています。
 
研究員:工場とはなんでしょうか。
 
ボズコ:家具などをろう者従業員が作っており、各州にあります。ミシンがたくさんあって、洋服などを作ってもいます。それから、2017年から遠隔手話通訳(電話リレー)サービスが各州で始まりました。そのサービスは、365日24時間使えます。病気や事故などトラブル、緊急時にも対応するためです。また、買い物とか、洋服の注文などでも重宝しています。
 
研究員:ろう者に対する年金などの制度はありますか?
 
ボズコ:年金制度はありますが、少ないです。仕事をしながら年金をもらうというろう者が多いです。
 
研究員:年金だけで生活はできるのですか?
 
ボズコ:最低限の生活ならできますが、旅行などの娯楽はできませんね。それから、電車の運賃半減、地下鉄やバスの運賃は無料になっています。
 
研究員:日本と似ていますね。
 
ボズコ:ろう者なので、年金をもらいながら働けています。幸せなのかもしれません。
 
研究員:日本には障害者雇用促進法という法律があります。ウクライナにはそういう法律はあるのでしょうか?
 
ボズコ:日本とは違いまして、ウクライナの一般企業はろう者を雇用するという姿勢がありません。まれな事ですが、あるろう者がこの企業で働きたいと何回も企業に働きかけてやっと入れたという例があります。一般的な企業は障害者に対しては門を閉ざしています。
例外なのはマクドナルド社です。積極的にろう者を雇用しており、たくさんのろう者が働いています。
それからヤネンコさんのようにタクシードライバーの仕事に就くろう者も多いです。タクシーで得た利益で家族を養っていけていますし、タクシードライバーはろうという特性と相性がいいのかろう者の方が稼げているのです。それで、他のろう者も「私も」ということでろう者のドライバーが増えてきているのです。
それから、雇用制度とはちょっと違うのですが、税金の軽減制度といって、ろう者を雇用していれば政府に納める税金が軽減されるという仕組み作りを進めています。ですので、資格などをもっているろう者を求めている企業も出てきています。その制度ができたら、ろう者の雇用、そしてろう者に対する理解の向上という好循環が生まれるでしょう。
また、もう一つ、10年前に食料関係で働くろう者を雇うという法ができまして、レジや陳列、調理などで働くろう者がたくさんいます。このように法の整備とともにろう者の就労環境もよくなってくると思います。
 
研究員:それから、手話の研究について伺います。
 
ボズコ:こないだ、初めてキーウの大学に手話研究部門ができました。今までは、手話通訳になる者はコーダのみでしたが、新しい法ができ、コーダでなくとも手話通訳養成課程に入れるようになりました。
 
研究員:ありがとうございました。

ボズコさんへのインタビュー「日本在住で驚いたこと」

研究員:日本に来て驚いたことにはどういうことがありますか?
 
ボズコ:日本に来て驚いたことは、普通は外国に行って1日目に驚いたことが沢山あっても、1カ月もすれば慣れてしまうけれども、日本では今でも驚かされることばかりです。
 
例えば、日本の服ですね。いろいろな性質の生地があり、作り方も丁寧ですよね。ヨーロッパの場合、どんな服でもカバンの中に無造作に入れておしまいなのですが、日本では、丁寧にきちんと折って畳んでカバンに入れており、日本人の丁寧で細かいところにびっくりしました。また、昔縫製の仕事に携わっていたことがあるので見てわかるのですが、通りすがりの人が着てる服も綺麗で良い生地を使っているのがよくわかります。
 
それから日本ではお金の手渡す時ですね、ありがとうと言いながら、両手できちんとお渡しするのがマナーだと思うのですが、ヨーロッパではそういうことは全然気にしないのですが、私は日本に来てそのマナーが自然に身につきました。
 
それから東京のろう学校、明晴学園を見学したことがあるのですが、その時の教育システムが非常に素晴らしく驚きました。
ヨーロッパではたくさんの生徒に対して先生1人で教えるというのが普通なのですが、日本の場合は、5、6人の生徒に対して先生が2人ずついて、先生と生徒との間にコミュニケーションがきちっとできていました。先生が質問して、生徒から答えを引き出そうとして、生徒は一所懸命考えたことを答えて、それを先生がまた説明する。視線を合わせながら丁寧に指導しているシステムがあったので非常に驚きました。ヨーロッパ、あるいは、ウクライナではそういうシステムがないので素晴らしいと思いました。
それから絵画の時間ですね、絵を描く時も同じです。描いて終わりはなくて、その生徒が描いた絵は何なのか、お母さんを描いたのか、何を描いたのか、きちんと説明させる方法をとっていました。それを小学校1、2、3年生と積み重ねていくので、その生徒の成長の様子が把握できるというシステムになっているのを見て感動しました。
私が一番望んでいることは、その教育のシステムをウクライナに持って帰って、子どもたちがダラダラ学ぶのではなく、子どもたちがきちんと成長し、マナーも身に着けられるような教育ができると良いなと今は思っています。
 
それから道を歩いていて、きこえる子どもたちが通学の途中ですれ違うと、子どもたちがみな私に挨拶をきちんとしてくださるんですね。なんで私に挨拶するのかと驚いたこともありましたけど、そういったことがマナーになっているのだととても嬉しく、びっくりもしました。本当にそういう話を一つ一つしたらきりがないぐらいたくさんの経験をしています。
 
ありがとうございます。

オレクサンドルさんへのインタビュー「文字字幕放送」「日本在住で驚いたこと」

研究員:ウクライナでは、テレビに手話通訳や字幕はどのぐらい付いていますか。
 
オレクサンドル:ウクライナ全土ではおそらくテレビの30%に字幕が付けられています。その他、政府が演説するときなどは、以前は、小さいワイプの中で手話通訳がありましたが、現在はテレビの画面の半分に手話通訳が映り、半分に発言している人が映るという形になっています。
字幕は、できれば30%ではなく、例えば、ビジネスの番組をはじめいろいろな番組に字幕を付けられれば、ろう者が仕事に就けるチャンスが増えることにつながると思います。もっとパーセンテージを上げるように努力してほしいと思っています。
今はテレビよりもむしろスマホで、例えばYouTubeのようなムービーがたくさんあります。数えきれないほど無料で見られるのがあるので、検索して、リストの中から好きなのを選んで、スマホの機能として字幕が自動生成される機能があるので、見たい動画を選んだら、それをテレビにつなげてテレビの画面でその動画を見ています。
ウクライナだけではなく、ロシア各地でも同じような状況で、こういう方法が増えているのは良いことだと思います。
 
研究員:日本に来られて驚いたこと、びっくりしたことはありますか?
 
オレクサンドル:たくさんあります。
例えば、日本に来て驚いたのはマナーについてです。歩道ですれ違ったとき、たまたま行き違う人と肩がぶつかってしまったことがあるのです。その時、本当は私の方から謝らなければいけなかったのに、先に相手の方からごめんなさいと言ってくれて、びっくりすると同時に素晴らしいことだと思いました。そうしたマナーがあればお互いの怒りも自然に収まると思います。
 
それから友人の運転する車に乗っていたとき、信号のない横断歩道で家族が道路を渡ろうとしていたので、車を止めたんですね。そうすると家族の中のちっちゃい女の子がわざわざ車の方に向いてお辞儀をしてくれたんです。そんなことはウクライナではありえないです。とても素晴らしいと思います。
 
また買い物に行ったとき、自分の欲しい物がどこにあるかわからなかったので、お店の人に書いたリストを見せ、「すみません、これはどこにありますか?」と聞いたことがあります。そうしたら、その店員さんは、最初から最後まで、すべての買い物が終わるまで同行してくれて、リストの物を買うことができました。本当に驚きました。
 
それから、これはショックだったことなのですが、役所などの手続は非常に時間がかかり驚きました。名前などを転記するのに、一文字一文字、手書きで書類作成し、2時間ぐらいかかってしまいました。ウクライナではさっと入力して5分くらいで終わることを、日本では2時間かかってしまい、非常に時間がかかるという印象があります。
 
それから日本の文化として高齢者に対して優しいことに驚きました。例えば、役所に行ったとき、メガネを忘れてしまっても、至る所に老眼鏡が準備されていますよね。それを誰でも自由に借りて使うことができる。そうした高齢者への支援がある。ウクライナにはそういうのがありませんでしたので驚きました。日本は高齢者に対して優しいと思いました。
 
あと、日本の自然も緑豊かで非常にきれいだと思いました。本当はもっと観光したいという気持ちを持ってます。
日本の食事の方法も良いですね。非常に細やかにできていて、例えば、アメリカだと大皿でドーンと出てきて食べ残してしまうことありますが、日本の場合は少しずつ細やかに、ちょうど良い量が出てくるので、私にとっては非常に嬉しいです。
 
研究員:ありがとうございました。