海外のろう者へのインタビュー

(10)ネパール&スリランカ

2018年10月21日、ダスキン研修生のスニタさん(ネパール)とユキさん(スリランカ)にインタビューした内容を紹介します。
 
※本インタビューは、話者の主観で語られている部分があり、実情と異なる場合があります。予めご了承ください。

スニタさんとユキさんへのインタビュー

研究員:日本へようこそ。簡単な自己紹介をお願いします。
 
スニタ:私の名前はスニタです。サインネームは<耳の前で「ホ」の手型を振る>です。ネパールから来ました。
 
ユキ:私の名前はユキ(「雪」という手話を表す)です。サインネームは<人差し指をあごの前にあて上下する>です。スリランカから来ました。
 
研究員:仕事は何をされていましたか。
 
スニタ:私は医薬品のピッキング(必要な品物を集める作業)の仕事をしました。ろう者は19人いました。聞こえる人も男の人も女の人もいました。そこを退職して日本に来ました。
 
ユキ:私の仕事はろう学校の先生でした。
 
研究員:何を教えていましたか。
 
ユキ:英語です。3歳・4歳・5歳のろうの子どもたちです。
 
研究員:小さいお子さんに読み書きを教えていたのですか。
 
ユキ:手話と口話で読み書きを教えていました。
 
研究員:あなたはネパールのろう協会に所属しましたか。
 
スニタ:はい。私の地元はシャンジャーです。シャンジャーろう協会のメンパーでした。
 
研究員:カトマンズまでどのくらいの距離ですか。
 
スニタ:バスで7時間くらいです。とても遠いのであまり行かないです。
 
研究員:ユキさんは、スリランカでろう協会に所属しましたか。
 
ユキ:はい。コロンボろう協会メンパーでした。私の友人が病気で手伝ってほしいと言ってきたので、ろう協会の仕事を手伝いました。2011年に複数のろう協会ができました。コロンボろう協会の事務所までは1時間くらいかかり、とても遠いです。
 
研究員:スニタさんは、ずっとろう学校でしたか。
 
スニタ:街から離れているため、全く情報がなくて、近くの聞こえる学校に通っていました。私の父方の叔父から、耳が聞こえないのであれば、ろう学校に行くと良いと紹介され、寄宿舎のあるろう学校に入りました。
 
研究員:小さいときから、ずっとろう学校でしたか。
 
スニタ:いいえ、15歳の時にろう学校に入りました。その後は、カトマンズにいました。
 
研究員:ユキさんは?千葉で生まれ、4歳でスリランカに帰国したと伺っていますが、筑波大学附属聾学校にいましたよね。スリランカに戻ってからろう学校に通いましたか。
 
ユキ:いいえ。私の両親は、附属聾学校で、口話教育を受けた幼児を見てきたので、スリランカに帰国してからは聞こえる学校に通わせられ、私は我慢して勉強をしました。わからないことは家族に教えてもらいました。大学に入ってからは、話がわからないので、友人のノートをコピーして勉強してきました。大学を卒業してから、ろうの子どもに教えたいと思いました。
 
研究員:ネパールとスリランカには、手話の辞書はありますか。
 
スニタ:はい、あります。
 
ユキ:はい、ありますが、実際に調べてみると地域によって手話が違います。例えば、「お母さん」の手話表現は、コロンボの場合<手を頭から肩まで下の方向になでる>表現ですが、ウェリガマの場合は<曲げた5指を頭の後ろにあてる>表現になります。
 
研究員:ネパールでも地域によって手話が違うのですね。あまり通じないことはないですよね?
 
スニタ:地域によって手話は違いますが、通じます。
 
ユキ:コロンボのろう者と地方のろう者が話す場合は、知らない手話単語があって、通じないことがあります。
 
研究員:ネパールのろう協会は強いですか。
 
スニタ:まちまちですが、ネパール政府ではなく、スウェーデンやイギリスの支援があるいくつかのろう協会は進んでいます。支援がないろう協会は、手話通訳制度もなく、教育を受けたことのないろう者の老人もいます。私の地元のろう協会も強くないです。手話通訳者やスタッフはいません。小さなろう協会です。ろう協会の事務所はろう学校の中にあります。会費は、無料で、みんな集まってきます。
 
研究員:ろう協会があるろう学校は、手話教育ですか、それとも口話教育ですか。
 
スニタ:手話教育です。
 
研究員:ネパールには、ろう学校はいくつあるでしょうか。
 
スニタ:たくさんあると思います。有名な町であるカトマンズには3つあります。
 
研究員:スリランカには、ろう学校はいくつあるでしょうか。
 
ユキ:たくさんあると思います。15校くらいです。
 
研究員:手話教育ですか。それとも口話教育ですか。
 
ユキ:両方です。
 
研究員:選択できるのですか。
 
ユキ:いいえ。手話教育もあれば口話教育もあります。3年で校長先生が異動になるので、校長先生が決めるのです。問題があります。
 
研究員:ろう者の仕事について、何か困っていることなど問題はありますか。
 
スニタ:はい、あります。ネパールではろう者に対して理解がないです。そこで、大きなろう協会ではろう者に仕事を紹介しています。コミュニケーションの問題はありますが、筆談をしてコミュニケーションをとっている人もいます。ホテルの仕事(ウェスタ―)、私みたいな医薬品のピッキングの仕事、ろう学校の先生に就いている人もいます。木工の仕事にも就いています。女性の場合、とくに問題がたくさんあります。それは、夜は危ないので、家族から家にいるようにと言われてしまうことです。ですので、ろうの女性は、教育もきちんと受けられず、仕事に就くことも難しくなっています。
 
ユキ:スリランカにも問題があります。私の職場も、聞こえる先生が話しているのに、手話通訳者がいなくなり、困って隣の席の友人に助けてもらうことがあります。情報保障がありません。毎日、助けてもらうのですが、その友人が辞めてしまったら困ってしまいます。スリランカでは、ろう者と聞こえる人が平等な社会にはなっていません。
 
研究員:ネパールのろうの子どもは補聴器を装用していますか。
 
スニタ:ほとんど装用していません。難聴の子は装用していますが、手話で学んでいます。以前は口話教育があったようですが、今はほとんどが手話教育となっています。
 
研究員:補聴器は高くて買えないのでしょうか。
 
スニタ:はい、そうです。高くて買えません。
 
ユキ:支援されているろう学校では、値段によって購入できる場合があります。聴覚障害が軽い子または難聴の子は装用しています。ろう者は、頭が痛くなるので装用していません。落として壊れる場合もあります。先生から声掛けしています。コロンボでは支援されているので、購入できますが、他の地域では買えません。
 
研究員:スリランカのろう者は運転免許を持っていますか。
 
ユキ:補聴器を装用しているろう者と難聴者は運転できますが、私はまだ取得していません。
 
研究員:ネパールはどうですか。
 
スニタ:運転できるろう者はいますが、バイクに乗っているろう者が多いです。無免許でも、IDカードを見せれば見逃してくれて大丈夫なのですが、事故が起きた場合は問題になります。ですので、ネパールでは「ろう者にも運転免許証取得を!」というデモを行っています。
 
ユキ:私の国もデモをしています。ところで、日本で驚いたのは、劇場に入るときに身体障害者手帳を見せれば割引ができるということです。スリランカではないのです。
 
研究員:ネパールはどうですか。
 
スニタ:障害者割引はあります。割引がないところもあります。
 
ユキ:スリランカは、そうした特別な扱いはないです。聞こえる人と変わりません。
 
研究員:日本で学んで帰国されますが、今の目標は何ですか。
 
スニタ:私の目標は活発に活躍する若いろう者を育てたいことと、レイプされたり性の知識が乏しく、妊娠してしまったりする問題を多く抱えているろう女性を守るために、ネパール全国のろう女性の集いを行い、日本で学んだことなどの情報提供をしたいです。女性の集いを開くことが一番大きな目標です。女性はほとんど家にいるので、きちんと教育を受けて欲しいと思っています。ですので、家族支援などのカウンセリングをやりたいと思っています。もうひとつ、若いろう者のスポーツも推進したいです。
 
研究員:スリランカに帰国されてからの目標は何ですか。
 
ユキ:スリランカではろうの子どもに教えても、すぐ忘れてしまうので、勉強法を身につけるためにどうしたらよいのか、日本で学びたいと思っています。
 
研究員:手話通訳制度があるか知りたいです。それぞれの国にありますか。
 
スニタ:ネパールにはあります。手話通訳者がいると心強いです。手話通訳をきちんとしてくれば、自信をもって講演することができます。手話通訳者のおかげで、幅広く活動することができます。手話通訳は仕事として、ろう協会から報酬が支給されます。
 
研究員:手話通訳者はどこで手話を学んでいるのでしょうか。
 
スニタ:手話講習会はありませんが、兄弟姉妹にろう者がいて、自然に手話を身につけた通訳者が多いです。または、ろう者の友だちに手話を教えてもらった通訳者もいます。それから、親がろう者の子ども(コーダ)も通訳しています。
 
研究員:スリランカの場合はどうですか。
 
ユキ:私は手話通訳サービスを使わないです。他のろう者は通訳サービスを利用しています。ろう協会が費用を出すこともあれば、自己負担の場合もあります。基本的には、政府からは出してもらえません。
 
研究員:お二人の両親は手話ができますか。
 
ユキ:いいえ、できません。口話中心です。手話を使うと怒られます。
 
スニタ:ネパールでは、ろうコミュニティについての問題があります。日本で学んだことを周知したいけれども、集まれるかどうか不安です。家族の考え方があるからです。ろう者の集まりがある場合、バスに乗るためにお金がかかるので、反対されてしまいます。ろう協会からお金を出すことができるよう手だてを模索しています。
 
研究員:日本に来てから1カ月経ちましたが、印象に残っていることは何ですか。
 
スニタ:新幹線のスピードに驚き、街がきれいなだと感じました。技術面もおもてなしも素晴らしいです。真面目に働くし、時間を守るので、ネパールとは大違いでびっくりしました。
 
研究員:待ち合わせは時間を守りますね。
 
スニタ:ネパールも時間を守ってほしいなあ。
 
研究員:ユキさんは、小さいころ日本にいた時と、大人になって来日した日本の印象はどうですか。変わらないですか。
 
ユキ: 変わりません。ディズニーランドが好きです。
 
研究員:もう時間になりました。ありがとうございました。
 
全員:ありがとうございました。