海外のろう者へのインタビュー

(14)スリランカ

2022年10月7日、全国手話研修センターにて、2021年度ダスキン研修生のカヴィンダさん(スリランカ)にインタビューした内容をご紹介します。
 
※本インタビューは、話者の主観で語られている部分があり、実情と異なる場合があります。予めご了承ください。
 

カヴィンダさんへのインタビュー

研究員:こんにちは。
 
カヴィンダ:こんにちは。
 
研究員:カヴィンダさんの名前の手話はどのように表すのですか。
 
カヴィンダ:こうです(右手人差し指と中指を右ほおに2回ほどあてる)。子どもの頃から太っていたので、このような手話になりました。
 
研究員:わかりました。自己紹介をお願いします。  
 
カヴィンダ:私はスリランカ出身です。インドの南側にある島です。小さい島なので、地球儀で探すのが大変なほどです。スリランカの名物は、コーヒーです。
生まれつききこえませんでしたが、親は地域の学校に行かせました。口話で学びました。
中学校までずっと地域の学校でしたが、授業についていけなくなり、ろう学校に移りました。
スリランカにはろう学校が19校あります。その中でも有名な学校に高校から通いました。
大学にも通いましたが、卒業するのは困難でした。ろう者が私1人だけで、他のみんなはきこえる人でした。きこえる友人が沢山できました。
ノートを借りてコピーしては勉強するという方法で試験に臨みましたが、卒業するのは難しかったです。
通常は4年で卒業しますが、私は5年かかりました。
スリランカの大学には手話通訳がなく、自分の力でなんとかしなければなりません。
卒業後は1年間、ろう学校で教えました。
ただ、ボランテイアだったので、給与は出ませんでした。
1年働いた後に、他の人から紹介され、いまは銀行で働いています。事務など、いろいろなことをしています。
2019年に(スリランカの)ろう連盟の理事長から呼ばれました。その時はまだ手話ができなかったので、口話で話しましたが、そのときに「連盟の仕事を手伝ってほしい」と言われました。ろう者は読み書きが苦手ですが、私はできるからというのが理由です。
連盟で少しずつ手話を学び、手話を話せるようになりました。
理事長に感謝しています。
8年間連盟のお手伝いをしました。
その中で、ダスキンの研修の存在を知りました。
連盟の活動や、ろう者の成長につながる研修を受けられると知り、応募しました。
2020年に合格し、22期生として研修を受けることになりました。
しかし、コロナで2年待機することになり、今年ようやく来日することができました。
日本での生活はスリランカと全く異なるので、驚きました。
日本の方がはるかに進んでいます。
日本のろうあ運動は素晴らしく、学ぶことが多いです。
研修生として選んでいただいたことに感謝しています。
 
研究員:日本での生活で一番驚いたことは何ですか。
 
カヴィンダ:道路やトイレなどの衛生面が進んでいます。日本人の皆さんも優しいです。
鉄道駅や空港ではスタッフからサポートいただき、まず、それに驚きました。
ろうあ運動も進んでいて、高齢者、子ども、女性など、全ての人の環境がいいです。
 
研究員:なるほど。わかりました。
ろうあ運動について学ばれていて、今は兵庫県で研修を受けられているのですよね。
兵庫県で色々見て驚いたということですか。
 
カヴィンダ:はい、驚きがありました。高齢者の方でも仕事をされるなど、良い生活をされていて、驚きました。
 
研究員:スリランカではどうなのですか。
 
カヴィンダ:そういうことはありません。
 
研究員:わかりました。次の質問ですが、スリランカに手話講習会はありますか。
 
カヴィンダ:あります。
 
研究員:どういった形式で実施しているのですか?
 
カヴィンダ:政府からきこえる講師に予算がおります。
受講生を集めて教えるのですが、途中でやめる生徒が多いです。
受講した人の中からは、コーダの方が手話通訳者になり、少し手話通訳をすることがありますが、他の方はまだ通訳したことがありません。
 
研究員:たとえば、カヴィンダさんが病気にかかったとして、手話通訳の派遣を依頼した時は、費用は政府が負担するのですか?
 
カヴィンダ:いえ、自己負担です。
研修などの時だけ政府から出ます。自分で依頼した時は自分が出します。
 
研究員:そうなのですか。
改めて確認したいのですが、手話講座の指導は政府から拠出され、手話通訳の派遣は自分が負担するのですね。
 
カヴィンダ:そうです。
 
研究員:わかりました。他の質問ですが、スリランカにろう学校はいくつありますか。
 
カヴィンダ:19校です。スリランカには25の県がありますが、ろう学校は19校です。
 
研究員:スリランカ全体にきこえない人は何人いますか。
 
カヴィンダ:20万人ほどです。
 
研究員:ろう者は何人ですか。
 
カヴィンダ:9万人です。
 
研究員:9万人ですね。わかりました。その方々はどういった仕事をされていますか。
 
カヴィンダ:読み書きができない人が多いので、企業などに勤めるのは難しいです。多いのは、服飾や工務関係です。企業に勤める人は少ないです。
 
研究員:その数少ない人の1人がカヴィンダさんなのですね。ご家族は何人いますか。
 
カヴィンダ:4人です。父と母と妹はきこえます。
 
研究員:カヴィンダさんはお兄さんということになりますね。わかりました。スリランカのどこにお住まいですか?
 
カヴィンダ:コロンボ近くのガ○○というところです。
 
研究員:コロンボからは車などでどのくらいかかりますか?
 
カヴィンダ:電車とバスで1時間くらいです。
 
研究員:日本では、全国各地で手話言語を普及するための取り組みを行い、各地で条例制定に成功している例が増えています。スリランカには、手話言語に関する法律はありますか?
 
カヴインダ:スリランカにはありません。
 
研究員:ろう者を支援する福祉制度はありますか。
 
カヴインダ:それも少ないです。
 
研究員:日本では、例えば、障害者手帳を提示すると、割引を受けられるなど複数の支援制度がありますが、スリランカには類似のものはありますか?
 
カヴインダ:ありません。自分が生活するために働いて、自分で支払う必要があります。電車、バスなど割引はありません。日本では、障害者手帳を提示すると政府から支援がありますが、スリランカではありません。スリランカでは障害者も自分で稼がなければならず問題を多く抱えています。政府からの支援はほんのわずかです。他方で、学校教育、例えば大学の費用に対しては政府から少し支援があります。
 
研究員:手話通訳制度は、まだなくて、苦労されているのですよね。
 
カヴインダ:はい。苦労しています。
 
研究員:スリランカにろう者協会はあるのでしょうか。
 
カヴインダ:スリランカには、ろう者協会が10あります。一番有名な連盟は1つあり、その傘下に13の支部がスリランカ各地にあります。しかし、スリランカには県が25ありますが、支部が設立されているのは13のみです。北部での設立がまだです。理由は、言葉が違うからです。スリランカには音声言語が2つあり、1つはシンハラ語、もう1つはタミル語に分かれていて、意思疎通が難しいこともあり、北部では協会がまだ設立されていません。会話をするのも、筆談をするのも難しいです。
 
研究員:いただいた手話の本にも、両方の言葉が併記されていますが、北部と南部では言葉が違い、意思疎通が大変だということのようです。
 
カヴインダ:少し前まで、北部と南部は戦争をしていて、約30年間続き、2009年にようやく戦争が終わり、スリランカが統一されました。
 
研究員:約30年もの長い間、戦争だったのですね。
ところで、ろう学校が19校、各地にあるとのことですが、小学、中学、それぞれ何校ありますか?
 
カヴインダ:小学校が19校、中学校も19校、高校が19校です。
 
研究員:小・中・高、それぞれ分けると、それぞれ何校ですか?それとも、まとめて19校という意味ですか?
 
カヴインダ:学校の中に、小学、中学、高校が一緒になって、それが19校あるということです。日本のように、分かれているわけではありません。日本では小学と中学が終わると他の学校の高等部に行くことがあるようですが、スリランカは一つの学校になっています。
 
研究員:19校は、政府から予算が出ているのですか?
 
カヴインダ:はい。政府から予算が出ています。ろう学校に対してだけ、政府から予算が支給されています。
 
研究員:ろう学校の学習内容は普通校と同じですか?
 
カヴインダ:はい。同じです。
 
研究員:書き言葉は難しいですよね。
 
カヴインダ:そうなんです。スリランカには言葉がいくつもあるのでろう者が学ぶのは難しいです。スリランカ語(シンハラ語とタミル語)、英語の3つを学ばなければなりません。やむをえませんね。
 
研究員:カヴインダさんは、教育は、手話で学んでこられたのですか?
 
カヴインダ:私は、小学と中学は口話教育、高校に入ってからは手話と口話で学びました。
 
研究員:カヴインダさん以外の他のろう者も同じですか?
 
カヴインダ:他のろう者は、手話教育です。手話での教育がずっと続いてきましたが、2019年に、手話はカリキュラムから削除されてしまいました。その理由は、仕事に就いた後のコミュニケーションには口話が大切だと政府が考えたようだからです。なので、手話が省かれ、口話教育が始まりました。
 
研究員:日本とは逆ですね。日本ではかつて口話教育だけでしたが、再び手話が見直され始めました。
 
カヴインダ:口話教育になった理由の一つは、人工内耳が増えていることと関係していると思います。口話能力の発展を目指して、生まれてすぐ人工内耳の手術をする場合が多いです。将来、どうなるかわかりませんが。
 
研究員:最後の質問になります。スリランカでは、手話の研究をしているところがありますか?例えば大学など。
 
カヴインダ:手話の研究はありますが、大学での研究はありません。手話の研究をしたい人を集めて、海外から指導しに来てもらい、学習しています。ろうあ連盟にそうしたプロジェクトがあり、スウェーデンから指導に来てもらい、研究、分析をしています。スウェーデンからの支援で研究などを行い、こちらにある手話のテキストも作成しました。経費も出してもらいました。スリランカとスウェーデンのろう者連盟会長が会って相談し、スウェーデンから研究者が来て研究をして本を発行しました。しかし、手話の本をなかなか確定できないという問題がありました。それは、スリランカの北部と南部の手話が異なるからです。北部と南部が話し合った結果、これらの手話で良しということになって、ようやく発行することができました。
 
研究員:ありがとうございます。最後に、みなさんに呼びかけるために何かスリランカからPRしたいことなどありますか?
 
カヴインダ:スリランカは世界的に有名とまではいきませんが、観光するには非常に美しい場所が沢山あります。海や食事、昔の寺院、高校も各地に設立され、特別支援学校もたくさん設立されています。また、コーヒーを作っている工場もあるので、ぜひいらして見学してください。スリランカに来られても心配はいりません、私がサポートしますのでぜひいらしてください。
 
研究員:すみません。質問し忘れたことがあります。スリランカで、ろう者は自動車の運転免許を取得できますか?
 
カヴインダ:できません。ろう者、障害者は、免許の取得ができません。理由は、スリランカの道路は曲がりくねって整備されておらず危険だからです。将来、道路が整備され、交通ルールもきちんと整ったら、免許を取得することができるようになるとの説明を受けています。でも実際はわかりません。遠い将来のことかも知れませんので、実現する頃に私はもういないかもしれません。
 
研究員:ありがとうございました。色々とお話を伺えました。みなさんもスリランカにぜひ遊びに行ってみてください。